僕の犯した罪は決して消えない。
でも受け入れてくれる人はいると僕はもう知っている。それは僕のことを誰かに話すだとか誰かが許すだとか、そういうことではなく。それらすべてを身の内に住まわせながら生きている僕を、そのまま受け止めてくれる人がいる。これからもきっと。
僕は僕の罪と一生をかけて向き合っていくのだ。僕にはその義務がある。
そして、僕のもうひとつの義務。
一生懸命に生き、大切なものを力いっぱい守ること。
簡単なことだった。僕にできることを行うこと、これだけだ。それを実際に行うのは時に困難なこともあるだろうが、僕はまず気付いてもいなかった。いや、漠然とは感じていたのかもしれないが、考えるために立ち止まることもなく毎日をがむしゃらに過ごしていた。笑っていても余裕がなかったと今ならわかる。
違う世界に来て気付くなんて間抜けなことこの上ないが、それらを知ることのできた僕は幸運だったと思う。これで僕はもう迷うことがない。
ナナミ、ジョウイ。君たちが何より大切だ。
リドリーのことは誰にも話さず僕の心の中に留めておくことにした。
幸いなことに誰も気付いていない。単純に知られたくない、それもある。けれどなにより必要がない。ユウリが知る必要も、僕が教える必要も。この世界でそれを知るのは僕だけでいい。いらない混乱を招くことだけは避けなくてはならない。それくらいの責任は取れるつもりだ。
そして、もうひとつ。気付いた時、僕は自分の性格の悪さに項垂れ、そして苦笑した。心のどこかで、僕はリドリーの記憶を独占したかったのだ。
僕はリドリーの死を通して成長したと言っていいだろう。僕はあの出来事があったからこそ、その後軍主として立っていられたのだ。
リドリー。貴方は僕に教えられたと言ったけれど、僕が貴方に教えられたのだ。
貴方の死を知らされたとき、僕にデュナンへ背を向けて平穏な日々を過ごすことなどできないのだとわかってしまった。
そうして、僕は迷いを捨てること、ひとつの想いを貫き通すことを決心した。
リドリー。僕は立派な軍主ではなかったね。
貴方はそんな僕にも笑いかけてくれるかな。
ふ、と思わず笑う。
貴方のことを思い出すとき、僕の胸に絶望感と罪悪感しか生まれないなんて失礼な話だ。
目を閉じれば瞼の裏に浮かぶ貴方はいつだって笑顔なのに。
もし、この世界でリドリーとまた会う機会があるなら、ボリスはお元気ですかと聞いてみようか。きっと驚く。息子をご存じで?と聞かれるかな。
とてもお世話になったんですと説明して。そして伝えよう。ボリスと出会えたことに僕は感謝します、と。
貴方に出会えなければ、ボリスにも出会えなかった。
彼はとても一生懸命仕えてくれた、尊敬する父親の抜けた穴を埋めようと本当に一生懸命。あの頃、僕はボリスに感謝の気持ちを十分に伝えられていただろうか。
リドリーにボリス、そしてたくさんの仲間たち。
僕はどれだけ皆に支えられていたのか。溢れるような感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
僕は今こうやって大好きな人たちのことを考えた時、あたたかい気持ちを抱くことができている。けれど、やっぱりそこには痛みも伴うのだ。それこそが、僕が一生をかけて向き合い続けるべきものなのだと考える。
この胸に刺さる、氷のような鋭い棘は決して抜けることなく、いつまでも僕に冷たい痛みを届けるのだろう。
僕はこの棘を抱き続ける。そして、この痛みとともに生きていく。
けれど、氷の棘ならば。
いつか溶けて、胸に染み込む日がくるのだろうか。完全に僕の一部になる日が。
その温かな可能性に心が小さく震える。
出会いと別れのすべてが、僕をかたちづくっていく。
胸に柔らかな風が吹き込むような、そんな清々しい心地に僕は瞼を上げた。
目に飛び込むのはデュナンの地。そしてあの頃の姿とほとんど変わりないユウリと、ラウ=マクドール。シュウやクラウス。優しい人々。
僕の世界とはほんの少し違うデュナンと、初めて出会う懐かしい人々に支えられ、僕は僕を受け入れる。
それは、僕の新たな始まり。