どんなにたくさん悩んだって、全てが繋がるのは一瞬だったりする。
そして同時に答えが現れる。
まるで、嵐みたいな悩みが嘘だったかのように、始めからそこに在ったのだとキラリ輝くのだ。
それがどんなに望まないものであろうと。
そうして、転がっていくボールを追いかける子どもたちの背中を見ながら。
「―――そうか」
すべてが繋がった。
子どもの内の一人が、「取ったっ」と声を上げ、周りの子が歓声を上げた。微笑ましい光景に思わず頬が緩んだ。
笑顔でこちらに駆けてくる姿を見守る。ボールを高々と両手で上げてこちらにアピールするので、なんだか僕も笑ってしまった。
「お兄ちゃん!取ってきたよ、投げて……」
言いかけた言葉を止めて、こちらを訝しげに伺ってくる。
「?」
首を傾げると、彼も小さな首を傾げた。
「……お兄ちゃん。泣いてるの?」
「え」
そう言われて頬を触ってみると、確かに濡れている。
ぽたりと指で拭いきれなかった涙が地面へ落ちて行った。
「……?」
僕は悲しいのだろうか。それとも、嬉しいのだろうか。
「お兄ちゃん?」
「うん?」
「……笑ってるの?」
なんだ僕は今度は笑っているのか。
おかしくて吹きだした。これは正真正銘笑っている自覚がある。
「うん、そうだね。笑ってるね」
子どもはホッとしたような表情を浮かべた。
突然涙なんか流されて困惑しただろう。
「ごめん。驚かせたね。大丈夫だよ。ボール、投げようか」
うん、と元気な返事をして、今度は間違いなく僕にボールを手渡すと仲間の元へ戻っていく。
片手で掴めるボールへ視線を落とした。この玩具が僕の悩みを解決してしまったなんて。
「すごいな。運命のボールだ」
そう呟き、「投げるよ!」と子どもたちに声をかけ、僕はボールを緩いカーブを描くように空に放り投げた。
運命のボールに対してなんて仕打ち。そして、僕はもう二度とこのボールに触ることがない。
こんなものだ、何かのきっかけなんて。
頬に手を当てる。涙は目尻に残るのみで、頬にはすでに笑みしか浮かばなかった。
これでいい。そう思った。
子どもたちの声と足音がボールを追いかけて遠くなった。
***
城に戻ろうと向けた視線の先、ユウリがこちらを見て立っていた。
いつから見ていたのかな。
そう思った後すぐに全部見ていたのだとわかった。
ユウリは白い顔をしていた。
僕が何を考えたかはわからないだろう、でも、僕が何かを考え付いたことはわかった。表情がそれを語っている。
僕が近寄ろうとすると、一歩後退する。
「―――ユウリ、」
「イヤだ。今、聞きたくない」
じり、とまた一歩後退する。
「ユウリ、それでも僕は言わなくちゃ。きっとこの答えを導きだすために僕はこの世界に来たんだから」
「じゃあ!皆のいるところで聞く」
「皆にも話す。でも、僕は君に一番に話して、君に理解してもらわなくちゃだめだ。でないと、帰れない」
視線は僕から外さずに首をゆるゆる振るユウリに、僕は距離を詰め、そして告げた。
「僕は、ジョウイの黒き刃の紋章を貰う」
ドン、と僕の胸をユウリが両手で突き飛ばす。
その強い力とは裏腹に、ユウリの僕を見る瞳は弱かった。僕との間にまた一歩、距離を開ける。
「―――なんで?」
そこに怒りはなく、哀しみがあった。
「諦めるなんて、なんで?」
いや、落胆しているのかもしれない。
ユウリの言葉の通り、なんでそんなことを考えたのかと。
でも。
「諦めてないよ」
僕の想いを伝えなきゃいけない、誰よりもユウリにはわかってもらわなければ。
彼は僕と同じ、いや、それ以上に僕とジョウイとナナミが平穏に過ごすことを望んでくれたはずだ。
諦めてない、ともう一度繰り返す。
「ものすごく前向きに考えた」
「わからない……っ」
ユウリの伏せた瞼の際から、一筋の涙が伝い落ちる。
雫となって地面に落ちるのを視線で辿る頃には、ユウリは僕の傍から去っていた。