ユウリはバナーの村に着き、宿の確保を同伴の腐れ縁二人組みにまかせると、 ひとり村の中を散歩し始めた。
 すると、村はずれに今まで気付かなかった小道を見つけた。遠くから小さな 水音が聞こえてきたので小川か池でもあるのだろうと足を進める。
 しかし、その歩は音源に辿りつくまでに、一人の男性によって止められたので あった。



「ちょっと前からうちに泊まってるお客さんだよ。その人、おっきいお兄さんの 方だね。奥にはもう一人いるんだよ、お兄ちゃんが」
 いつものように頭に金の輪っかをつけ、赤い服に身を包んだコウがユウリの 傍らへ寄ってきて、意味ありげに言う。
「なんっだぁ、コウ?やけに嬉しそうじゃねえか」
 一足先に宿に入ったビクトールとフリックは早くも酒を酌み交わしていた。 中身が半分以上減っているジョッキを手にしたまま、ビクトールがコウの顔を 覗き込む。
「あのねえ、あのねえ!僕、知ってるんだ」
 わざと何を、とは言わず秘密めいた口調で言うのでユウリもわざと大げさに 聞いてみる。
「何を?知りたいなあ、僕に教えてよ!」
 期待通りの言葉にコウは顔を赤くしながら得意げに語った。
「あのお兄ちゃんは同盟軍のリーダー、ユウリ様なんだよ!!」
 自信たっぷりに言ったコウにユウリは目をぱちくりとさせる。

 同盟軍リーダー、ユウリ。
 すなわち、自分。

 考えるまでもないのに、思わず頭の中で確認をしてしまう。
「えっと。同盟軍リーダー?が、あの道の奥に?というか、ここに滞在している の?」
 幼い少年はやはり自信に満ちた様子でウンッと力いっぱいに頷く。
「コウ。本人がそう言ったのか?」
 横からフリックがそう尋ねてもおかしくはないだろう、ユウリ自身がココに いるのだから。コウの言う「お兄ちゃん」が虚言を吐いているのだとしたら 少々問題だ。
 だがコウはあっさりと首を振った。
「ううん。僕がそう思うの。だって絶対そうだもん」
 くっくっく、とビクトールが押さえきれないといったふうに肩を揺らして 笑い出した。
「同盟軍の英雄か!オイ、俺らも会えねえか、コウ?」
 好奇心むき出しの顔を向けるビクトールにもコウは満足したらしく、誇らしげ に胸を張って、作戦があるよ、と続けた。

 聞けばなんとも子供っぽい作戦ではあったが、目的が目的なだけに誰も文句を 唱えることなくコウの作戦にのることにした。
「でもさ、本当に人に会いたくないっていう人だったらどうしようか」
 少々心配顔になったユウリにビクトールは別に、と肩を上げる。
「謝りゃいいだろ」
「・・・そっか」
「自分が本人だと気付かれず、他人がそう見られてるってのに、よくまぁ 楽しそうにしてられるなぁ」
 素直に納得するユウリを見てフリックは苦笑したが、それでも興味はある らしく、愛剣オデッサを片手に椅子から立ち上がった。



 あまり大勢で行くのも警戒心を煽るかもしれないという話になり、再度ユウリ のみが先に行くことになった。ビクトールとフリックは見張り役の男性が 立ち去るのを確認した後、こちらに向かってくるという手はずだ。
 案の定申し訳無さそうに先を止める男性に、ユウリは今更ながら小さな罪悪感 を覚える。
(こんなに人の好さそうな人を騙してまで見に行っちゃってもいいのかなあ)
 自分のような歳若いものにまで丁寧に接する姿は付け焼刃のものではなく、 普段からそうなのであろうと容易に想像ができる。
 明るく優しい緑色をした瞳と豊かな金髪の下にある、大きめの十字傷が不似合い に思えた。
 何度も頭を下げてくる男性に、もういいですと言いそうになった時、幼い子供 特有のよく通る声が聞こえてきた。男性はすぐにコウの叫び声だと聞き取り、 止める間もなく駆け出して行ってしまった。
 ユウリは半ば呆気に取られながら走っていく男性の後姿をしばらく見ていたが、 道の先へと視線を戻した。
 ビクトールの言う通り、不快な顔をされたらすぐさま 謝って戻ってこればいいか、と思いなおす。正直、興味があった。コウが 同盟軍リーダーだと信じて疑わない人物がこの先にいる。
 二人がここに着くまでには少し時間 がかかるだろう。そう思い、再びゆっくりと足を進めだした。



 やがて小道の先に開けた場所があることを知った。
 そして、一人の少年の後姿を視界に納める。
 緑に囲まれた水辺、鮮やかな赤の胴衣を身に纏い、その手に竿を握って水中へ 糸を垂れていた。
 風の止まった昼下がりの太陽の下、白っぽく照らされたその空間は、時間まで 止まってしまったかのようにどこか現実離れして見えた。
 無意識のうちにさらに前へと進む。
 特に注意をしていたわけではなかったが、ぱきりと小枝を踏む音に自分で驚き、 慌てて足を上げた。
 視界の端で少年が反応を示したのがわかり、顔を上げてみれば自分より 若干年上であろう少年と目が合った。ユウリはだが、目が合っているという ことを認識できないまま、少年の黒の双眸から目をそらせないでいた。僅かに 黒の瞳が見開かれた気もするがそれも記憶に定かではない。
 緩い風が水の上を渡って、こちらへ届く。さらりと風に浮いた長めの前髪が 少年の瞳を見え隠れさせ、またユウリの瞼の上にも前髪がぱたぱたと降ったが、 二人とも髪を払うこともせずにただ見詰め合っていた。
 が、突然黒髪の少年は何かに反応し、その視線を素早くユウリを越してその 向こうへと移したのだった。

「ラウ・・・!」
「ラウ!!やっぱりお前・・・っ」
 直後、バタバタという慌しい二つの足音と、発せられた驚きの声にユウリは 我に返った。
 二人にラウと呼ばれた少年は、目を丸くすると、竿を置いてふらりと立ち 上がった。
「ビク、トール・・・フリック・・・」
 どこか幻を見ているかのように二人の名を口にする。
「なんっだ、元気そうじゃねえか!!」
 ずかずかと近づいてきたビクトールに手加減なしに肩を叩かれて、ようやく 少年は硬い表情を解いたが、それでも驚きの目は向けたままだった。
「会えて嬉しいぜ、ラウ!!」
「はははっ、なんて偶然だ!」
 フリックは少年の頭をぐしゃぐしゃと手荒に撫でる。
「わっ、ちょっ・・・!」
 少年はなお伸びてくるビクトールとフリックの手を振り払うと、息を整え 二人を見上げる。
「なんだよ、一体!なに、普通に・・・また顔を合わすなんて・・・。 ありえないよ!!本当にビクトールとフリック!!?」
 少年の声は緊張したものから驚きと喜びに溢れたものへ代わっていった。
「そりゃあこっちのセリフだ!お前ホンモノだろうなぁ!?」
 静かだった岸辺にわぁっと歓声が上がった。



 ユウリは三人が知り合いとわかった時点で後ろに下がり、再開に喜ぶ様子を 眺めていた。
 頬を紅潮させて笑う、ラウと呼ばれる少年を見ていて不思議に思った。今 とても輝きに満ちて眩しいくらいの存在感を放つ彼が、第一印象とどこか違う のだ。
 どうと言っていいのかはユウリ自身にもわかりかねたが、漠然と大人っぽく 落ち着いた印象を受けたのに対して、ビクトールやフリックと笑う今の姿は同年代の 少年と変わりがない気がする。
 どちらも彼なのだろうけれど、どちらも見た目と一致しない・・・と 言ったら失礼にあたるだろうか。
 と、再会を楽しんでいたはずの少年がふいとこちらへ目を向けた。
 なんて綺麗な、漆黒の瞳。その果てしなく深そうな黒の中には金色の太陽が 輝いていた。








 目が冴えて眠れない。ユウリは何度目かの寝返りのあと体を起こした。
「だめだ。眠れない」
 トレードマークの金の輪っかも、普段着けている手袋も サイドテーブルに置きっぱなしにしてベッドから離れる。
 そしてもう眠りについているであろう人たちを起こさないようにそっと階段を 降り、外へ出た。

 ふぅと息をついて空を見上げると、硬質の光を放つ細い三日月が静かに 浮かんでいた。晴れ渡った空に星の輝きも賑やかで、街もほの青く包まれている。
 この街をまだゆっくりと見ていない。ふらふらと夜の街を歩いてみるのもいい だろうと思った。
 迷子になりはしないかと一瞬思ったが、これだけ立派な屋敷であればきっと 見つけられるだろうと一人頷く。

 やがて道が開け、ユウリは広場へ足を踏み入れた。
 広場の中心には大きな噴水があり、乙女像が抱いた水がめから惜しげなく水が 流れ落ちている。
 昼間通った時には散歩を楽しむ老夫婦、談笑する婦人たちや走り回る子供ら、 商売人やパフォーマーなどで賑わっていたこの場所も、今はしんと静まり返り 人気のないぽっかりと空いた空間には水音だけが絶え間なく響いていた。
「・・・・・・?」
 その噴水でゆらりと動いた何かに気付き目を凝らす。
「ラウさん・・・」
 彼の姿を視界に捉えてユウリは足を止めた。
 ラウは噴水の縁をゆっくりと歩いていた。その動きは水の流れのように滑らかだ。
 細い月の光に照らし出された横顔は優しくもあり、凛とした鋭さも漂っている。
 夜の闇にあっても彼の存在感は際立っていて、静かに、だが零れんばかりに 輝きを放っていた。

 やがてこちらに気付いて向いた姿に、昼間の出来事が重なって軽いデジャヴを 覚える。
「・・・・・・ユウリ?」
 確かめるように形の良い唇からでた自分の名前に、ユウリは目の醒めるような 感覚に陥る。
「・・・あっ、はい!」
 それでもなんとか返事をすると、噴水の前に佇んでいるラウの元へ駆け寄った。
「こんばんは、ラウさん」
「え。ああ」
 クスリと笑って応える様もなんだか形になって見える。
「こんばんは、ユウリ。どうしたの、こんな夜更けに。眠れない?」
 ビクトール達との会話でもわかっていたけれど、話し方は明るくてとても 親しみやすい。
「はい。それで気分転換にちょっと外に出てみようかと思って。まだあんまり この街を歩いていないので」
「今日はバタバタしていたからね。・・・僕も久しぶりにゆっくりとこの街を 歩いてみたくなったんだ」
 そう言って、懐かしげに視線を辺りへ巡らせる。

 解放戦争が終結して丸3年以上が経っている。
 トラン共和国は数ヶ月前に建国記念日を迎えたと同盟軍軍師であるシュウが 言っていたことを思い出す。
 戦争終結後まもなく、旧都市同盟軍とトラン共和国が戦い、あっさり土地を 奪い返されたという話は、まだ幼かったながらも今は亡き養父ゲンカクより 聞いていたので、より記憶に鮮明だ。
 姿を消した英雄の話はハイランドにも伝わっており、ユウリでさえも噂に 聞いたことがあった。
 さらに新同盟軍を旗揚げしてからは、集まってきてくれた者のうち解放戦争に 携わっていた者も多く、トランの英雄の話を聞く機会は自然と増えた。とはいえ、 じっくり話を聞くほどに時間はなかったのが本当のところだ。

 昼間の、二つの紋章の光。
 ユウリは同時に自分の隣で放たれた黒い光に、思わずジョウイの姿を求めて 横を見た。すると驚きに彩られた黒の瞳もまた、こちらを見つめていたのだった。
 急ぎグレッグミンスターへ向かう道中は必要最低限のことしか話さなかった。
 気にならないわけでは決してない。ただ、考えるにしては彼について知らな さすぎた。
 そうしてグレッグミンスターへ着き、ようやくユウリはラウと呼ばれた少年が 解放軍元軍主、ラウ=マクドールであることを知ったのだった。
 レパント大統領の前でありながら、ユウリの驚きぶりにビクトールとフリック は腹を抱えて笑っていた。
 よく考えれば思いついただろうけど。そんな余裕はなかったとユウリは 顔を赤くしながら反論した。

「それにしても昼間の大統領謁見は驚いたな」
 まさしく考えていたことを言われて一瞬面食らったが、吹き出すラウに ユウリも思い出し笑いをする。
「あれはビクトールとフリックの意地が悪いです」
「話についていけなかったの僕らだけだったろ?」
「そう。ひどいですよね」
 ユウリがラウのことをトランの英雄と知って驚いたのと同じように、ラウも ユウリが新同盟軍のリーダーとわかって驚いたという。
 名前の紹介はした。が、ユウリは自分が同盟軍リーダーであることを言う必要 はないだろうと思っていたので、同盟軍でビクトールやフリックと共に働いている としか話さなかった。そしてラウからも、二人の旧友であるとだけしか 聞かなかったのである。
「あの時ようやくわかったよ。君がすごい威力の力を見せたことも、レパントに 会いに来たことも・・・ああ、ごめん。だって僕は君のことをビクトールと フリックの仲間としか認識していなかったから。二人がレパントに会いに行くって いうのは昔の戦友としてかもしれないと思ったんだ、まさか二人が 政治の話を求めにきたとは思わなかったし。道理で僕が不思議に 思った時、二人して顔を合わせて嫌な笑いを浮かべたはずだよ。ったく、なんの つもりだったんだか」
 そう言って面白くなさそうに腕を組む。
「僕も不思議でした。ここにお家があるということはなんとなく話の流れで わかったんですけど、なんかこう・・・前に来た時とは街や、とりわけお城の 中の空気が違うと感じたので・・・」
 とは言え、ユウリにはまだわからないことがある。ラウの右手から放たれた黒い光。
 しかしあの紋章の力と思われるものについて、自分から尋ねるのはなにか 躊躇われた。コウを助けに行こうとバナーの宿を飛び出す直前、ほんの少しの 間であったがラウが右手を握りこんで動きを止めたことが気になっていた。
 そして紋章の力を見て直感的に思った。この人も何かと戦っているのだろうと。

 城でレパント大統領がその権限をラウへ渡そうとしたところ、ラウは ハッキリと辞退した。
 ユウリが呆気に取られているうちに話が進んだせいもあってその意味を知る ことはできなかったが、それでも周りにいたトランの人々は理解を示したよう だった。
 その時ラウに集められていた視線、取り巻く空気は、確かに彼が解放軍 リーダーであったことを雄弁に物語っていた。

 3年ぶりの故郷はどうだ。
 夕食時のビクトールの問いに、ラウは笑ってまだ実感が湧かないと答えた。
「戻ってきて良かったですか?」
 言葉にした後、いきなり何を尋ねてしまったのかと自分自身の言葉に途惑う。 ラウの黒の瞳に一瞬だけ困惑の色が掠めたようだった。 が、ユウリが謝ろうとするより先に、
「・・・そうだね」
 と穏やかな声色で肯定の返事がかえってきた。
「そうなんだ」
 素直にそう思ったのと安堵から心のままに相槌を打ったけれど、よく 考えたら意味がわからない相槌の上、口調まで目上の者に対するものでは なかったことにまた後悔する。
「ところでさ、どうしてさっきユウリはあそこに立ってたんだ?僕って わかったんだろ?」
 ラウ本人はさして気にもならなかったらしく明るい調子で話題を変えると、 再び噴水の周りを歩きはじめる。ユウリも下から追って一緒に歩く。
「あ、ええと。綺麗だなって思って見惚れてました」
「・・・・・・え?」
 こちらを見下ろして眉をひそめるラウの様子に、今更のように失礼なことを 言ったのかもしれないと心配になる。そもそも同じ男から綺麗などと言われても 嬉しくないに違いない。そういえばジョウイも少年兵仲間に綺麗だと言われて 困惑していたように思う。
「・・・すみません。僕、さっきから失礼なことばかり言っていますね」
「いや、失礼というか、なんというか・・・」
 顎に手を添えて考える仕草をする。そしてふっと力の抜けた笑いを浮かべた。
「うん。面白いな、ユウリって」
 今度はユウリが眉をひそめる番だった。
「あの、どういう意味ですか・・・?」
「うーん、説明するのは難しいよ。とりあえず省略させてもらえるかな」
「・・・はい・・・?」
 頭の上に疑問符を並べるユウリにかまわず、ラウは少年の胸元を指差す。
「ね、その服。僕のおさがりだ」
 ユウリが今身に着けているのはグレミオが明日着るようにと渡してくれたもの だった。紺色のTシャツにベージュのカンフーパンツ。腰にはブルーグレイの布 を巻いている。
「そうだったんですか、ピッタリですよ」
「僕が14歳くらいの時のものだと思う。グレミオ、よくとっておいてたなあ」
 エッと小さく声を出して固まるユウリを見て、ラウは喉の奥で笑った。
「実は一瞬誰だろうって思った。アレ、つけてなかったし」
 といって、自分の額を指す。いつも付けている金色の輪っかのことを言って いるのだろう。
 ユウリは落ち着かないように指先で自分の前髪をいじる。
「寝る時は外しているんです。・・・ひょっとしておさがりの服で僕って わかったんですか?」
 まさか、とラウは笑みを絶やさずそれ以上は答えない。
「・・・?あっ、僕もラウさんかどうか迷いましたよ。バンダナ付けてらっしゃ らなかったし。でもすぐにわかりました」
「うん?どうして」
「ラウさんみたいな人を僕は他には知りません」
 誇らしげに即答するユウリに、ラウは瞬きを一つ二つしてから苦笑いを 浮かべたのだった。
 噴水の縁から軽く地面へ降り立つと、屋敷のある方向へ歩き始める。
「帰ろうか、ユウリ。明日は噂を聞きつけた人が家に来るかもしれない。 そしたら賑やかになっちゃうだろうから、きっとゆっくり寝てられないよ」
「はい」
 ラウの後ろを追いかけながら、何気なく広場を振り返った。
 広場には来た時よりも濃い青が降りたようにユウリの目に映り、噴水だけが 変わらない水音を立てていた。

 マクドール邸が家々の奥に姿をあらわし始める。
「夕食の時はあまり話せなかったから、いま話せて良かったよ」
「本当ですか?僕もラウさんと話せて嬉しいです」
 夕食はマクドール家でグレミオの料理に舌鼓を打ったが、そこでの話題は お互いの空白の3年間についてだった。それぞれラウとグレミオが二人城を 後にしたこと、ビクトールとフリックが城から解放軍本拠地に戻ることなく 姿を消したことに始まり、どこを回り、どんな出来事があったか。前後して 同じ街に滞在したこともあったらしく、夕食はとても盛り上がって楽しいものと なった。
 ユウリはといえば聞き役に徹していた。むしろ、自分の話題はして欲しく なかった。旧友である彼らの会話や漂う雰囲気は、ユウリにとっても心地の 良いものであり、自分の話題によってこの場の雰囲気を変えたいと思わなかった。

 敷地内に足を踏み入れる。
「あっ」
「どうした?」
 ラウがドアノブに伸ばした手を止める。
「握手、していただいていいですか?ちゃんと挨拶できていなかったので」
 ラウは興味津々といった風に自分より少し下にある少年の顔を見つめ、 それから正面に向きなおした。
 ユウリは手を出そうとして自分の右手がむき出しであることを思い出す。 自分が紋章持ちであることは既に知られているらしいし、隠す必要もなかったに 違いない。また出したところでこの闇夜に確認ができたかどうか。
 が、咄嗟に左手を出してしまった。
 ラウも特に疑問に思わなかったのか、同じように左手を伸ばしてきた。
「ラウさん、よろしくお願いします」
「うん。よろしく、ユウリ」
 何故かおかしそうに笑んでいるラウは右手を腰にあてがっていて、ユウリからは 紋章どころか手さえも視界に入れることはできなかった。

 部屋へ向かう廊下で、並んで歩いていたラウが突然クスリと声を出して笑った。 横を見上げてみると、悪戯っ子のような笑顔がそこにあり。
 この人はこんな笑い方もするのかと、ユウリはしばし別の思いに気を取られる。
「左手、ね」
「え」
 我に返り、だがラウの言葉の意図がわからず首を傾げる。
「会って早々ライバル宣言されたのかな」
「・・・?なんのことですか?」
 眉間の皺を深くするユウリの問いかけには答えず、やはり小さく笑いながらも 手をひらりと振ると自室へと入っていってしまった。
 廊下には難しい顔をしたユウリ一人が取り残された。



 次の日の朝、フリックにその意味を教えてもらい、ユウリは真っ青な顔をして ラウの部屋の前で彼が出てくるのを待つことになる。

長い!!でもさらに分けるほどでもない(アッ)ので・・・。

今回は2主から見た坊ちゃんをメインに。

ゲームのイメージではバナーでの出会いはこんなに賑やかではないけど、 自分の坊ちゃんたちのイメージからは明るくなりました。
空白の3年云々もお互いに楽しい話ばかりしたんじゃないかな〜なんて。
他のことは、さしあたり「元気だったか?」「うん」、「元気だった?」 「ああ」、これでいいと思う。それ以上は機会があればまた。言いたきゃ言うし 言わなきゃ聞かないが基本。

えー・・・。英雄イベント話じゃないですよね、コレじゃ(汗)英雄イベントは 2主からの視点でサラッと済ませてしまいました。
二人がグレッグミンスター滞在中にどう近づいていくのかが書きたいなぁと 思ってます。

あと、坊ちゃんが腐れ縁のことを「政治の話をしにレパントに会いに来たとは 思わなかった」と言ったのは、二人は傭兵だからです。 こういう話は然るべき立場の人がいる公式なものであるべき (この場合は2主ですが)だと思っているのでそう言ったのです。 ・・・と注意書きしないとわかりにくいですね。うう、言葉足らず。

次は、坊ちゃんから見た2主メイン。同じ時間のそれぞれのサイド、 ではなくて少々ズレています。被る時間も少しありますが、ほとんどが次の日。
そして長さも同じくらい。