日が暮れてから、酒場へとやってきた四人組を見て、レオナは思い切り眉を 顰めた。
 
「またあんたたちかい、全く……そんな歳から飲んでばっかでどうするのさ」
 
 その言葉を聞いてきょとんとしている四人組は、成る程確かに若い、というか 酒場にいるには幼いと言えた。



 耐久戦



 一応これも商売。
 レオナは、仕方なしに四人の注文した酒をカウンターに置いた。
 渋々、といったその表情を見て、シーナが笑いながら口を挟む。
「大丈夫だって。いつも飲みすぎないようにはしてるし。 でもちょっとは酔う気分を味わいたいじゃん?」
 だから量は多くなっちゃうけどさ、と悪びれなく言う。

 そうなのだ。
 サヤ、ルック、シーナ、シファの四人組は、時々酒場で酒盛りをする。
 四人とも歳は若いのに、どこで飲みなれてきたのやら、酒には滅法強い。
 だから大人たちの心配は本来ならば要らないものなのだが、 それでもつい心配になってしまう。
 このうちの一人が軍主、というのも心配に拍車をかけているのではない だろうか。

 だが、当の軍主はそんな心配を他所に、嬉々として酒の種類を選んでいる。
 そんな軍主に溜息をつきつつ、ふとレオナは気になって彼らに向かって尋ねた。

「そういえば、アンタ達の中では酒の強弱はあるのかい?」
 誰が一番強くて、誰が一番弱いとか。
 勿論、傍から見たら誰も変わらず強いと思うけれど。
 そんなレオナの言葉を受けて、四人は顔を見合わせた。
 しばしの沈黙があって。


「…無い、と言えば嘘になるよね」
「この前のアレか」
「あぁ、成る程」
「ちょっと三人とも、アレは忘れようって言ってたよね?」


 サヤが呟き、シーナとルックが同意し、シファが珍しく慌てて口を挟む。

「俺はそれなりに面白かったけど」
「シーナは最後まで潰れなかったじゃないか」
 シーナが笑いながら言うと、シファが軽く睨んだ。
 普段温厚な少年が珍しく慌てている様子に、レオナは静かに驚く。

 シーナはどこか面白がっている節がある。
 どうやらサヤもシーナに近いようで。
 ルックは相変わらず無表情で、シファは慌てている。

 もしかして。

「アンタ達、自分達だけで一回潰れるまで飲んだことあるのかい?」
 四人の様子から、結末もなんとなく予想できる。


 レオナの推測に、四人はそれぞれ肯定の反応を見せた。



「もう、レオナさんにバレちゃったじゃないか」
「いいじゃん、別に、大事が起こったわけでも無し」
 むすっとしながら杯を傾けるシファに、シーナが慰めの声を掛ける。
 カウンターから離れた席に落ち着いた後も、シファの機嫌は直らなかった。
「それにルックだってシファの後早々に潰れてたんだからさ」
「うるさいよ」
 ルックの答えは、一言だけ。こちらもあまり機嫌はよろしくないらしい。
「大丈夫ですってば。シファさんもルックも、寝ちゃっただけなんだし」
「そうそう。暴れたりとかなかったんだから、良いじゃん」
 サヤとシーナ、酒に強い組が何とか取り繕うとするが、あまり効果は無く。


 いつだったか、少し前。
 明日はゆっくり休んでください、と軍師に言われた日の夜だった。
 それなら折角だから一回くらい、と、シーナが相当の量の酒を自身の部屋に持ち込んで。
 他三人を招待し、とことんまで飲んでみようということになったのである。
 それぞれ、それなりに自分の限界はわかっているだろうからそれまで、と。
「やばかったらすぐ飲むのを止めるってことで。良いだろ?」
「いいけど……、明日身体動くかなぁ?」
「そこら辺は自己責任てことで。サヤは特に注意な」
「結構無茶苦茶なこと言ってるよね、シーナ」
 シーナの物言いに、シファが溜息をつく。
 それから、他愛も無い話をしながらしばらく飲み進めていたのだが。

「あ、あれ?シファさん?」
 サヤの慌てた声に、シーナ、ルック両名がシファに眼をやると。

 テーブルに突っ伏して、穏やかな寝息を立てている。


 つまり、寝入っている。


「……ギブアップ第一号?」
「シファの限界はこのくらいの量か」
「突然スイッチ切れるんだね、シファさんて」
 寝顔可愛い、とサヤが覗き込む。

「寝かせるか?」
「このままじゃ風邪引いちゃうしね」
「よし」
 サヤの言葉を受けて、シーナが立ち上がった。
 シファへと近付き、ベッドまで移動させようとする。
< 軽々と少年を抱き上げ、危なげない足取りで運ぶその様子に、 ルックが思わず呟いた。

「シーナ……もしかしてまだ全然平気?」
「んー、ちょっとは酔い始めてきたけど」
 さらりと答えるシーナの様子に、ルックは思わず化け物、と呟く。

「何?ルックもそろそろ限界?」
「うるさいよ。さっさとそれ運んできな」
「へいへい」
 ぎん、と睨まれて、怖いねぇと呟きながらシーナがベッドまで移動し、 寝かせる。
 テーブルに戻ってきた時には、サヤが笑いながらルックを覗き込んでいた。
「あれ、やっぱルックも限界か」
「うん。シーナがシファさん運んでる間にね。頑張ろうとしてたけど、 駄目だったみたい」
 笑いをその顔に刻んだまま、サヤがルックをソファーへ寝かしつけた。
「いつも隙を見せない二人がこれだけ無防備なの、珍しいね」
「酒の力だからな。まぁ、普段こんなに飲むこと無いから心配無いだろ」
 言いながら、シーナが空き瓶の群れを見る。
 もはや残っている酒は少なく。

「サヤはまだ平気そうだな」
「まぁね。シーナよりは酔いが回ってると思うけど」
「そうかぁ?」
 そうは見えないが、とシーナは言うが、確かにこの時点でサヤはそれなりに 酔ってきていて。


「シーナ、本当に強いね」
「お前も相当だろ、サヤ」
 お互いに笑い合う。
 残った二人は、最後の酒瓶の片付けに入った。




「だって、気がついたら寝てて起きたらベッドの上だったって、情けない じゃないか」
 次の日の朝のことを思い出し、シファの声がさらに低くなる。
 酒代も相当かかったから、もうやらないようにしよう、と四人で誓った。
 ついでに潰れた時のことも忘れるようにと、シファとルックはシーナとサヤに 散々言ってきた。
 だから、というわけでも無いが、覚えている必要のあるものでも無かったから、 レオナに言われるまで本当に忘れかけていた。
 いたのだが、思い出して今に至る。
「悪酔いしないんだから、全然良いと思うけどな」
 悪酔いする奴見たことあるか、性質悪いんだぞ、とシーナがしみじみと言う。
「悪酔いねぇ…」
 サヤがそっと呟く。

 呟いて、連想してみる。

 酔いに任せて暴れるシファとか。

 切り裂き連射するルックとか。

 余りに怖い想像に行きかけて、慌ててやめた。


「お酒は程ほどにってことだね。やっぱり」
e n d

柚季様がリンク絵のお礼にとリク受けてくださったのです!!
「坊ちゃん・2主・ルック・シーナで酒を飲んでいて、坊ちゃんかルックがつっこまれてる」、なんていう図々しいリクをしました…。
普段つっこまれることのなさそうな二人がつっこまれたら、と思ってリクさせていただいたのですが…ス、ス、ストライク!!

酒の強い順に、シーナ→サヤ君(2主)→ルック→シファ君(坊ちゃん)ですねv
どちらかというとつっこまれ役っぽいシーナが優位に!そ、そして坊ちゃんが一番弱い立場ですよ?気付いたら寝ていて、運ばれたことにも気付かず、果ては2主に「寝顔が可愛い」などと言われてますよ!(それを知ったら坊ちゃん、自己嫌悪に陥りそうですね)
シーナと2主が「覚えている必要のあるものでも無い」と思うくらいの事に、坊ちゃんとルックがむきになってるかと思うと…なんかニヤリですv
もうやらないでおこうと誓った原因のひとつが酒代というところに「そこかー!」と私が4人にツッコミ。(あわわわ)

私のリンク絵のお礼にしては大きすぎます。倍返しどころではありません。海老で鯛を釣った気分です。(海老どころかメダカだったのでは)
柚季様、本当に、本当にありがとうございます!