デュナン湖に流れ込むいくつもの川の内のひとつ。
 川幅は平均して約4メートル、深さは場所によってまちまちだが、流れは比較的 緩やかなため透明度は高い。
 空気はそれほど熱を持っていないが日差しがことのほかキツく、日光の下に出ると 瞬間に肌が焼けるように感じたある日。この川に涼みに行こうという提案が上がった。




「ラウ!」
 川から手を振ってくるユウリに、丘に残っていたラウも手を振る。
 元々誰が言い出したことなのかも曖昧で、どう人から人へ伝わったかに至っては さっぱりわからない。そんな縦も横もわからないような統一感のないメンバーが、 岸に靴を脱ぎ捨てて水に足を浸していた。
「来ないの?気持ちいいよー」
「あとで行くよ」
 そう応えて木の幹に背を預けた。棍は肩に立てかけるようにして腕を組む。
 木は棍を縦に持っていても枝に当たらないくらいに大きく、葉も青々と茂り、 その緑のグラデーションが影となって幾重にも根元を染めていた。
 空からの射すような日差しが見ているだけで目に痛い。瞼を下ろすと優しい影が 奥の瞳にまで感じられた。

 パシャパシャという涼しげな水音につられるように再び目を開ける。
 やはりと言うべきか、いつのまにか水のかけあいっこになっている。
「うわあっ!?」
 よく知った声に視線を滑らせれば、ユウリが頭から盛大に水をかぶって立ち尽くして いた。後ろでシーナとサスケが大笑いをしているのを見て察するに、ユウリは背後から 2人がかりの奇襲を受けたのだろう。
「やったな・・・!」
 ゆるりと振り返ると、もう濡れるのも構わず(すでに頭からボタボタなのだから 構う必要もないだろうが)腰を低くして、川面に対して水平に大きく腕をかいた。
 大きな水飛沫が上がると同時に、
「わっ!」
「こら、ユウリ!?」
 とターゲット外からも悲鳴が上がる。円状に広がった水飛沫は誰彼構わず辺り 一面に被害をだしたようだ。
 そうなればもう、全員参加の水かけ大会としか言いようがない状態へと突入だ。

 ラウはその光景に微笑み、そしてまた目を瞑った。
 と。口を開く。
「ところでルックは早くも隠居?」
「・・・君に言われたくないんだけど」
 いつのまにか登っていた(否、転移してきていた)頭上の人物へ、顔も上げずに声をかけた。
「僕は水の傍だったら少しは涼めるかと思って来ただけだ」
 ぱらりと紙を捲る音が、葉の擦れあう音に紛れてラウの耳に届く。
「木の上で読書ね。優雅じゃないか」
「したいなら別の木でどうぞ」
「ルックと2人で木の上で読書なんてちょっと笑えるね」
「ちょっとも笑えないよ」
 即訂正を唱え、ため息混じりに、
「読書の邪魔」
 と続けた。
「もっとも君はここを動く気はなさそうだけど」
「ご名答。悪いね、静かにしておくよ」
「・・・スコールでも降らせるつもりかい」
「素直に喜ぶとこだろ、ここは」
「・・・・・・」
 会話はそこで途切れ、それぞれの空間へと戻る。
 ラウは水辺が見渡せることをもう一度確認して目を閉じた。眠るつもりはないが (しかも立ったままでなんて)、目を閉じるだけで随分と気持ちが安らいだ。




 ひたっ、と。頬に冷たいものを押し当てられて、驚いて目を開けた。
「ラーウ。立ったまま寝るなんて器用すぎる!ね、暑くないの?」
 両頬を包むようにしていたのはユウリの手だった。
 髪の先からぽたぽたと雫を落としながら笑いかけてくる。水に濡れているせいなのは 勿論、手の温度自体が下がっているようでヒヤリと冷たい。
 寝ていたわけではないのだが、わざわざ否定する必要もないかと曖昧に微笑んだ。
「木陰だから暑くないよ。でもユウリの手は冷たくて気持ちいいな」
 頬を包むユウリの右手に自分の左手を重ねた。手の甲も冷えていて、手のひら の温度をすぅと吸い取られるように感じた。
「あ。僕はあったかい」
「ずっと水の中にいたから冷えたんだよ」
 ユウリは川から上がったら暑いんだもん、と言う。
「でもここは涼しくて気持ちいいね。ラウが僕に気付かなかったのもちょっと わかるかも」
 そういえば自分に気付かれずによく近づいてこれたなと思う。周囲は見知った者 ばかりで、近づいてきたのがユウリだったとはいえ。

「あれ」
 ユウリが見上げた視線の先に何かを見つけたらしい。何かだなんてラウには 考える必要もない。
「ルック。そんなところで昼寝?一緒に川に行かない?」
「ど・く・しょ」
 誰が聞いても間違えないくらいにゆっくりハッキリ、だが多分に嫌味っぽい言葉が 降りてきた。ユウリの二つの質問に対して一言で済ませてしまったルックは再び 視線を本に戻す。
 しかしユウリはルックのそっけない態度を気にもせず続ける。
「優雅だねえ」
 ルックの片目が本の端から覗く。どこかで聞いた覚えのある 言葉に反応したのか。しかしすぐに興味がないように本でユウリの視線を遮る。
「したいならすれば」
 ラウの時のように別の木で、と付け加えなかったのは、ユウリは水遊びより読書を 優先するとは思えなかったからだ。
「えー、暑いから川に来たのに。今日は水遊びがいいなあ」
「そう」
 予想が当たったことに大した感慨もなく答えたが、次の言葉は想像範囲外だった。
「じゃ、今度一緒に読書しよう」
「・・・今度はないよ」
 動揺からほんの少し遅れて返事してしまったことに心の中で舌を打った。もう一人の クッと喉を鳴らした音が妙に腹立たしい。
「暑いならこんなところで立ち話してないでさっさと川に戻ったらいいだろ。ついで にそこの立ったまま寝る器用なヤツも連れてってくれると嬉しいんだけど」
 努めて平静を装った、だがあまりに彼らしい言い方に、ユウリは何の違和感も 持たず、やはり彼らしく返答したのだった。
「でもここは涼しいから」
「ね」
 2人揃っての期待したのとは全く違う方向の答えに、ルックは力を込めて本を 閉じた。
「・・・さっさとここから出てけ」
 ルックの抑えてはいるが棘に磨きがかかった話し方に、ラウとユウリは 思わず同時に木の上を見上げてしまう。が、やがて2人で顔を見合わせると。 ニヤリ。そんな音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべた。
 逆効果だった。ルックが後悔する間もなく。
「ラウ、ずっとここにいようか!?」
「ここから出るほうが暑そうだしね」
 木の下の2人はそうわざとらしく言葉をかけあうと、ご丁寧にがっちり抱きあった。
 視覚と聴覚の両方から不快さが攻めてくる。その苛々がルックの元々高くはない体内温度を上げ、逆に我慢の沸点を低くした。
「アンタたち・・・」
「あーあったかいー」
「僕はユウリが冷たくてちょうどいいよ」
「っ、見てるこっちが暑いんだよ!!!」

「おーい。ラウ、ユウリー?なに暑っ苦しくイチャイチャくっついてんだよ!降りて 来ーいッ」
 ルックの振り上げた右腕は、思わぬ声の乱入に動きを止めた。名を呼ばれた2人も そのままの格好で川を見下ろす。
 3つの視線の先で、川に足を膝までつけたシーナが両手を大きく振っていた。 彼の太陽を浴びた清々しいまでの笑顔に、3人は冷静さを一気に取り戻してしまう。
「・・・イチャイチャって言われるとなんか嫌だなあ」
 ユウリが訝しげにその言葉を繰り返した。
「シーナ、テンション高くなってるな」
 ラウは彼のくだけた口調に上向いたユウリへ ニッコリと笑いかけると、川の中の青年を無遠慮に指差した。
「行こうか、ユウリ。シーナのお望みどおり参戦しよう。シーナを集中攻撃、っていう のはどう?」
 ラウの言葉に、ユウリの顔がワクワクしてたまらないような笑みでいっぱいになった。
「やる!そうこなくちゃ!」
 あ、とユウリが駆け出しそうになった足を止めて後ろを振り返る。
「ルック。ごめーん、また後で!」
「もう帰ってこなくていい」
「また後で、ルック」
 ユウリに続いてラウが片手を上げる。
「アンタは一体何がしたいんだよ、切り裂かれたいのかい!?」
 シーナの乱入により下ろされていた右手が再び上がろうとする。
「それだけは勘弁!ルックだって余計な動きで暑くなりたくないだろ?」
「だったら黙ってさっさと行きな!」
 ルックの希望通り満面の笑みのみを返し、ひらりとバンダナの先を翻す。そして少し先で待っていたユウリと共に木陰から日差しの中へ飛び出した。

 ラウは直接の日光の眩しさに目を細める。だが、肌に遠慮なく降り注ぐ太陽の光線も 悪くない。
 川へ向かう最中ユウリがラウの色の変わった衣服に目を留めて、あッと声を出した。
「ごめん。僕ずぶぬれだったっけ」
「いい、いい。どうせ今からずぶぬれになるんだし」
「ふふ、派手にいこうね!」
「勿論。やるからには徹底的に」
 服に染みた水気はまだ残っているものの、頬や腕についていた水は川につく頃には すっかり乾いていた。乾いた先から濡れるわけだけれども。




 ざばーんと豪快な音と共に大きな水柱が上がり、しばらくした後、
「殺す気かぁ!!!?」
 という叫び声が川岸に響いたとか。
 それがシーナの声だったとか、誰が彼を殺す気だった(少なくとも彼自身がそう 認識している)のかは、木の上で誰にも邪魔されることのない我が時間を取り戻した ルックにとってはどうでもいいことだった。
e n d

亘理様へ。
12345HITのご報告&リクエストありがとうございます〜!
小説で「じゃれあうWリーダー」という悶えるリクをゲットしてしまいましたよ。 ふふふ、どうしようかしらなんて考えて出来上がったら、バカ騒ぎしている 2人になってました。
ルックからかって楽しんでます、この2人。なんて恐ろしい。でも仲はいいんですよ! 説明しないと仲悪いのかと思われそうなネタでごめんなさい。
うちのWリーダーをお好きだと言ってくださったのに・・・こ、これで良かった のでしょうか!?
書いてた私は「やっちゃえやっちゃえ」のノリだったので楽しかったです、が。わあ。

本当にリク、ありがとうございましたv嬉しかったです、気合いはいつもの如く 空回りですが、Wリーダーへの愛もいつもの如くいっぱいです(笑)
そして、当サイトに来ていただいたことへの感謝の気持ちはもっといっぱいです。
宜しければお納めくださいませvvv