階段を駆け下りてきたユウリと、エレベーターで降りてきたラウが1Fで ばったり顔を合わせた。
「おはよう、ユウリ」
「ラウ、おはよう!昨日はお疲れ様」
「あはは」

 昨日ユウリは城に滞在中のラウを誘って、見回りを兼ねた経験値稼ぎに外へ 出ようとした。すると、城を出るところでサスケが自分も行くと加わり、 さらにはワカバも修行の為に行きたいと言い出したので結局4人で外へ 出たのだった。

 ユウリとラウが二人で外に出ると、散歩属性が高くなる傾向にあった。
 モンスターとは襲って来ない限り戦わないし、自ら危ない場所へも行こうとは しない。つまり、あまり戦わない。
 それは経験値稼ぎとしてはどうだろう、ということになるのだが、 強い相手を倒してガバッと経験値を稼いだほうが効率が良いではないか、 というのが二人の持論だ。
 戦わない間はたわいのない話に花を咲かせている。
 しかし自ら危険に飛び込まないとは言っても、見回りを兼ねているので 大きな道からは外れた場所を談笑しつつのんびりと歩いているのである。
 旅人や商人が遠くからこの二人の様子を見たら、さぞかし危険なことをしている 二人に見えるに違いなかった。

 ところが昨日は勝手が違った。
 サスケもワカバも自らを鍛える為に危険な場所へ進んで行こうとするところが ある。二人とも純粋に強さを求めているので、自然意気投合する勢いで モンスターへ向かっていく。その後をユウリとラウが追う、そんな形に なってしまったのだった。
 夕方戻ってきた一行は、すっきりした顔と疲れ果てた顔の二つに分かれていた。

「倒した数はそんなに多くはないはずなのに、あのペースに振り回されてたよねー」
 ユウリは笑い混じりに言った。
「普段どれだけ僕らがのんびりしてるかっていうのもわかったけどね」
「あっ、それを言われると痛いなぁ」
 顔を見合わせて、また笑う。
「で、今日はどうしたの?どこか行くのかい?」
 いつもの赤の服をきちんと着ているユウリを見て言う。
「うん、ムササビ探しツアーしてこようと思って。あ、ラウは今日は昨日の 疲れを取ってちょうだい。明日お願いしたいことがあるんだ」
「それはかまわないけど。そのムササビ探しには誰を?」
「うん、ルックを」
 ユウリの口から出てきた、同行させるには難しそうな人物の名にラウは うーん、と首を傾けた。
「・・・ルックね。来るかな?」
「ふふ、そういう時には軍主の権力をここぞとばかりに使わせていただきマス」
 穏やかに笑いながら、職権乱用を宣言した。ラウも面白いものが見れそうだと 少年が悪戯を思いついたような笑いを浮かべる。
「・・・ふうん。では僕は見学させてもらってようかな」
 階段を指差してココで、と示す。ユウリはニカリと歯を見せて了解の意を 見せると、次の瞬間に手すりへ勢いよく駆けて行った。
「ルック!」



 頭上からの自分の名を呼ぶ声に、ルックは時間をかけながらその方向を見る。 その視界に上の手すりから大きく身を乗り出しているユウリの姿を収めた。
「・・・何か用?ていうか、用があるならここまで来て言ってくれる」
 ユウリは2度3度と瞬きをすると、素直に頷く。
「そうだね」
 と、言ったと思うと手すりを跳び越えて、体を宙に放り出したのだった。
「う、わぁっ!?」
 ルックの叫び声を無視して、すたんっと軽い音をさせて目の前に着地をする。
 満足な笑顔を浮かべて立ち上がった軍主の頭へ、ルックはすかさずコブシを 下ろした。
 容赦ないゴッという鈍い音が響く。
「イタァッ!?」
「っ。もっと軽い音がするかと思ったよ」
 それだけ言うと、その場で蹲ってしまった少年をそのままに、緑衣の少年は 持ち場へ平然と戻った。
「ル、ルック!いきなりコレはひどくない!?」
 頭のてっぺんを押さえて涙目で訴える彼を、ルックはごく冷ややかな目で見やった。
「それは誰の台詞だと思ってるんだ。僕の上に落ちてたらどうする気だったんだ ・・・!」
「ちょっと待って。それ僕の心配じゃないんだ?」
「当たり前だろ!」

 階段の手すりに体を預けて見下ろしていたラウが、とうとう二人の様子に 声を出して笑い始めた。
「・・・・・・君もいたのか」
 嫌なものを見たとでも言うように頬を歪める。
「いたよ。想像以上に面白いもの見せてもらっちゃった」
 いたずらっぽく笑って階段を悠々と降りてくる。
「ひとごとだと思って」
 ルックの台詞にラウは苦笑いを浮かべた。確かに突然人が目の前に振って きたら誰だって驚くだろうし、できれば自分も遠慮したい。もっとも自分が するなら話は別だが。
「ったく君は僕を怒らせたいのか?」
「だってルックが言ったんじゃないか、下に来て頼めって」
「階段ってものが何の為にあるか考えたことあるかい!?」
 ビシリと階段を指差すルックにユウリは肩をひとつ竦めると、平然と答えた。
「飛び降りた方が近道だったからね」
 その答えにしばしルックはフリーズ状態に陥ったが、やがて諦めたように ゆるりと首を振った。
「もういいからあっち行ってよ・・・」
「待って。それじゃルックのとこにきた意味がないじゃないか」
「じゃあ何」
「ルック、今から森の村付近に行こう!」
「・・・・・・・・・嫌だね」
 元気良いユウリの申し出にルックはたっぷり時間を置いてからそう答えた。
 するとユウリが腕を組んでふーっと深く息をつく。それは予想範囲内 の反応だったようで。目をちろりと上げる。
「あのねえ。軍主の命令は、絶対」
 にや、と笑った。
「!!」
「ユウリ、僕も行くよ」
「えっ。ラウ、休んでてもらっていいんだよ」
「大丈夫。自分の体のことはわかるさ」
「あ、じゃあ甘えちゃおう」
「・・・ちょっと。勝手に『僕も』って何・・・僕も・・・?」
 和やかな空間を作る二人からルックはじりじりと距離を置こうとする。 が、ラウの声が容赦なく飛んでくる。
「ルック。軍主の命令は絶対だろ?」
「っ、君なんかユウリに入れ知恵した!?」
「してないよ、失礼な」
「じゃあ、なんで二人して同じ台詞を吐くんだよ!」
「同じ台詞?」
 ユウリが尋ねると、ラウはにっこりと笑った。
「僕も昔同じことを言ったと思う」
「へえ。歴史は繰り返すってやつだね」
「ね」
「ね、じゃないよ!ラウが行くなら僕が行く必要はないね!?」
「何を往生際の悪い。僕はルックの代わりじゃなくて、おまけ。当然ルックも行くんだよ」
 ルックが絶句して現軍主を見てみると、ラウの隣でこくこくと頷いている。
「なんだって・・・、僕じゃなくたっていいだろ?別の人を連れてってよ」
 ルックの言葉にユウリが顔をしかめる。
「僕なりにいろいろ考えた人選だよ。それにルックが人多いの好きじゃない って知ってるから二人で行こうとしたのにさ」
「・・・二人の方がもっとイヤなんだけど・・・」
 おしゃべりのターゲットが自分ひとりに向けられるではないか。
「えっ、僕とはイヤってこと?」
 素直にルックの言葉を受け取ってさあっと青ざめたユウリにルックは珍しく 注釈を付けようとした。
「いや、そういうことじゃなくて」
「ルックは二人だと間が持つか心配なんだよね」
 にこりとラウが仲介役を買って出る。ルックに言わせれば微妙に違うのだが、 それを否定する時間は与えられなかった。
「そ、そうなの?僕は全然気にならないけど。あっ、じゃあビクトールも 呼ぼうか。さっき暇だって言ってたから」
「熊はもっとゴメンだよ!!!」
 ユウリが言い終えるか否か青い顔で叫ぶルックに、ユウリはとうとうむくれた。
「じゃあルックは誰だったらいいっていうのさ」
 うっ、と詰まった後、ややあって答える。
「フリック・・・とか」
「うわ、ユウリ聞いた?自分より不幸そうな人を連れていこうとしてるよ」
「ルック最低〜っ」
 ふざけながらはしゃぐ二人にルックの怒りは一気にMAXに達した。
「行けばいいんだろ!!!」
 次の瞬間自分自身の発言に固まる。
「その通り!さあ行こう!」
「モクモクが待ってるー!」
 笑顔と共に合計4本の腕がルックに力強く伸びてきた。
「・・・ムササビはもういいんだよ・・・」
 力無いルックの呟きは当然のごとく無視され、二人に腕を掴まれるとズルズル と引きずられるように大広間を後にしたのだった。
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底抜けに明るいWリーダーが揃った日には無敵やろうなあ。 誰も逆らえないんじゃ・・・。
「緩やかに〜」を書いてる最中にズレちゃったお話です。軌道修正したのが 「緩やかに〜」、派生したのが「賑やかに〜」。

アホな短編になりましたが、読んでくださった方、ありがとうございます。 (それはこの話に限らずですが・・・)