来たときと同じように数々のテントの間を抜け、前を歩く軍主殿の後頭部を
見ながら私は考えていた。
先ほどの涙を流していた顔と、ふとした瞬間に見せる微笑みに、全く違うのに
そのくせとても類似しているかのような印象を受けていたのである。
ああ、そうか。と、唐突に自分の疑問に答えが出た。
ユウリ殿の泣いている顔と笑っている顔がひどく曖昧に思えた時、それは
とても似ているのだ。
何故か、そう思った。そしてその答えは私にとって納得のいくものだった。
私の視線に気付いたのか、やおらこちらを振り向くとはにかんだ笑顔を見せる。
今この笑顔を間違っても泣き顔だとは思わない。
笑顔が泣いているように見えた時と、泣き顔が笑っているように見えた時。
それはユウリ殿自身がどちらかに処理しきれない時に見せる表情ではない
だろうか。
ユウリ殿は周りの者を不安にさせることを見せようとしない。
優しく、広く。
それでも人間なのだから弱い部分があって然るべきで、それを彼の強さが隠そう
と努めている結果ならば。
力及ばずながらも私がその弱い部分を少しでも預かることができればいい。
そう考えてから私は苦笑を漏らした。
新参者の私がこのように考えるのだ、きっと他の者も同じように思っている。
父上。貴方もそう感じたのでしょうか。
決して返ってくることのない質問に、自ら答える。
きっと、そうに違いない、と。
トゥーリバーの平和の為に、そして力を合わせて戦っている同盟諸都市の平和
の為に戦う気持ちに、今も変わりはない。
が、その願いの上に立ち、皆を導こうと努力しているこの少年を手助けする
ために、ここにいたい。そんな新しい想いが生まれた。
同盟軍のリーダーではなく、この人を支えたい。
そんな自分の気持ちを認識した途端に、私の胸は高鳴った。
父の意思を継ぐ
こと以外にこのような強い意志を持てるとは思わなかったのだ。
「あっ」
ユウリ殿はの突然声を上げると、しまったという表情で
立ち止まった。
「ねえボリス。ひょっとして君も会議に出なくちゃだめなんじゃないの?」
「はい。後から加わると伝えてこちらに来ていました」
「しまった・・・僕、ちょっと出てくるって言っちゃったんだっけ。た、たぶん
もう1時間くらい経ってる・・・!」
私は冷静に思い出す。
会議の開かれているテントに行った時、シュウ殿曰くすでに1時間経っていた。
そして私が医療エリアにたどり着き、そして留まった時間。
「ユウリ殿、おそらく会議が始まってから約2時間が経つと思われます」
「・・・本当!?」
ユウリ殿の音がしそうな青ざめ方に私は苦笑した。
「大丈夫ですよ。私も一緒ですから説明致します。それにシュウ殿がむやみに
怒られる方でないことはユウリ殿も知ってらっしゃるでしょう」
「そ、そうなんだけど。時間に遅れて申し訳ないっていうか・・・。そうだね、
ひとまず行かなくちゃ」
自分自身を納得させたのか、ひとつ頷く。
「ボリスが一緒で良かったぁ。僕一人だったら慌しく会議に
駆けつけて、皆の話し合いを無駄に中断させるところだったな、きっと」
胸に手を当てながらほぅと息をつく姿を見て、私は首を傾げたくなった。
・・・少しは役に立っているということだろうか。
それでも自分の目指すもの
とは全然別のもので、それにはやはりまだまだ努力が必要なのに違いない
けれど。
「・・・何笑ってるの?」
いつのまにか見上げられていたことに驚くが、妙に充実した気分になっていた
ので素直に気持ちを口に出すことにした。
「貴方の傍にいさせていただきたいな、と思っていたのです」
「な・・・な、何?それに、それに、それは僕がお願いする立場です!」
私の発言に赤くなり、一生懸命反論する軍主の姿に私はつい声を出して
笑ってしまった。
「ボリス〜」
「っ、は!も、申し訳ありません!」
慌てて姿勢を正す私に、ユウリ殿は楽しそうに笑い返した。
「いいよ。ボリスとこんな風に笑えて嬉しい」
そう言った後の少年の笑みに私はまた何かを感じたが、気付かないふりをして
手を前方へと差し出す。
「さあユウリ殿。皆、貴方のお帰りを待っているでしょうから」
私の声に応えて、軽い足取りで私の前へ出たユウリ殿が、髪をはずませて
振り向いた。
「行こう」
彼のとても明るく朗らかな笑顔に、私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
「はい」
父上。
ユウリ殿を守るために尽力し、死した貴方を心から誇りに思い、また尊敬して
います。
私は新たに貴方の意思を継ぐことを決意しました。
今の私では貴方に敵わないけれど、それでも努力しつづけることを約束します。
貴方が守ったユウリ殿を、これからは私が守りましょう。
そして、これは私から貴方への最初の挑戦でもあります。
ユウリ殿が貴方の為に浮かべた笑顔を、私の為に浮かべずにすむように。
私は、生きてユウリ殿を助けます。
e n d
えーとー・・・。
ボリス頑張れ、2主頑張れ、なお話?
それにしても私、リドリー好きなんですよ!ティントイベント・・・
なんて憎らしい!(でもやってしまう)
始めは2主の泣いてみえる笑顔と、笑ってみえる泣き顔にスポット当てたかった
んですが、いつのまにやらボリスの決意語りに傾いてました。そんなこともアリ?