陽の下で鮮やかな金髪は、暗闇の中では焚き火の灯りで黄色から赤の
グラデーションに染め上げられていた。
緑の瞳まで炎を映して赤く見えるのが面白いな、などとラウはぼんやりと考える。
金髪と緑眼の持ち主グレミオは、置き火と残っている木の間に丁度良い太さの
薪を差し込んでいる。空気の量を調整するのがうまく火を絶やさない方法だそうだ。
ラウもグレミオの動作を見て多少はわかるようになったつもりだが、
グレミオにはよく止められる。それが彼がラウの腕を信用していないのか、
ただ単に安全を考慮しているだけなのかは彼のみぞ知るところである。
パチリと爆ぜる音に、火へと目を移す。
一時も形を留めない炎はいつまでも見飽きることがない。
炎の暖かさに自然と瞼が落ちてくるのが自覚できた。
ほどなく体にグレミオの若草色の大きなマントがかけられた。
目は閉じていたが、見なくてもわかる。
それは2人で旅立ってから習慣となったこと。
旅を始めた頃、気にしなくていいからと断っていたが、朝起きると必ず彼のマントが
自分にかけられてあったのだ。
「どうしてこういうことするかなぁ」
何度目かの朝、ラウはむくりと起きあがると力なく言った。
「あっ。坊ちゃん、おはようございます。え、えっ、私のマントは嫌ですか?」
朝の挨拶を忘れないところが律儀なグレミオらしい。
「嫌じゃないよ、そうじゃなくてさ・・・」
視線を感じて見上げると、不安に揺れる緑の瞳とバッチリ目が合った。
そんな目をしなくたって・・・。
「そうじゃなくて」
気持ちを切り替えるともう一度言いなおす。
「僕にそんなに気を使わなくたっていいんだよ。
僕も昔の僕ではないし、グレミオは旅の同行者なんだから」
「で、ですが」
一息で言ったラウに対して、間を置かずに金髪の青年は身を乗り出して反論した。
「坊ちゃんは坊ちゃんです。それは私にとって何ら変わることのない事実です。
今までの関係をナシにして坊ちゃんに接するなど、グレミオにはできません」
そうだろうなあ。
ラウは心の中で苦笑すると、あぐらをかき、片手に頬を預けた。
「坊ちゃん」
真剣に訴えてくる緑の瞳。
グレミオはラウに弱い、と皆は言ったが、ラウに言わせれば逆も真なりである。
「わかった、わかったって。もういいよ、グレミオの好きにしたら」
「坊ちゃん〜」
「・・・拝まないで、グレミオ」
手を組んでキラキラした瞳を向ける青年に黒髪の少年は小さくため息をついた。
もちろん嫌気がさしてのため息ではない、この金髪の青年はそういう人間なのだ。
よく知っていることを再確認しただけのことだ。
「でもさ、もっと自分を大事にしてよ。グレミオが病気になったりでもしたら誰が
僕のご飯を作るのさ?」
ちょっと意地悪く言ったつもりだったのだけれど。
「ぼ、ぼ、坊ちゃんー!大丈夫です、グレミオは丈夫ですから!!
坊ちゃんのお世話は、ご飯と言わず全てグレミオにお任せ下さい!」
ああ、やっぱりこういう答えが返ってきた。
わかっていた、わかっていたけど。それでも言ってしまった自分は。
まったくもって自分勝手だ、と我ながら思う。昔の自分とは違うと言いながら、
こういうところは変わってないのだと確認させられた。
ほんの少しラウが動くと、グレミオは火から少年へと目線を移し、
マントから体がはみ出していないか確かめに来た。
「・・・グレミオ」
「ああ、驚いた。起きていたんですか?どうされました」
「んー・・・。一緒に寝よっか」
「は、はい?」
「火はもういいよ、ここはそんなに危ない場所じゃないし。今日はもう寝よう」
がばりとラウは自分にかけられたグレミオのマントを大きくめくり上げる。
たっぷりとした彼の若草色のマントはラウとグレミオを楽に包めるだろうと
思われる。そして「一緒」というのは、一緒にこのマントに入れということに
違いない。
グレミオは慌てて首を横に振る。
「わ、私はいいです!坊ちゃんは寝てください、グレミオはもう少し火の番を」
「いいから、いいから。それとも僕の頼みが聞けない?」
「そ、そんな。坊ちゃんの頼みを断るなんて・・・」
基本的にグレミオはラウの言うことに逆らうことはない。言葉を中断させると、
手早く火を始末してそろそろと隣に入りこむ。
「どうしたんですか、坊ちゃん?こんなこと言うなんて珍しいじゃないですか」
「ん。たまにはいいだろう?・・・オヤスミ」
「はい。おやすみなさい」
グレミオは寝起きだけでなく、寝つきもいい。
あっという間に眠りについたのが肩越しに伝わってきた。
ラウはあくびをかみ殺すと頭を落ち着けなおす。
火を消したので瞼の上からは真っ暗な闇がのしかかってくるように感じた。
昔はこれが嫌で、よく寝つくまでグレミオにベッドの側で明かりを見てもらっていた。
ラウの口の端が微かに上がる。
成長したんだか成長してないんだか。
明日の朝にはきっとグレミオはこのマントの中にはいないのだろう。
そして早起きの彼は自分の為に朝ご飯を作っているに違いない。
それにしても、少し重たいグレミオのマントはとても落ち着く。
何度目かのあくびと共に、そう思った。
end
城を出てからスグって感じですか。
うちでは坊ちゃんあまり悲壮感ないです。