「皆、行こう!!」
少年の声が障害物のない原野に凛と響き渡った。
おおおお、と打ち寄せる波のような幾万の声がそれに応える。
やや小高くなった場所で馬に跨った軍主はそれらを見渡し、柔く微笑む。
その大きな余裕さえ感じさせる笑みに兵士らは胸の高鳴りを覚えた。
勝てる、と。
「輝く盾の紋章の加護があらんことを!!」
軍主ユウリそしてその左右にフリックとビクトールが並び、先頭をきって馬を
走らせていた。
「ユウリ、スピード落とせ。後ろが遅れてきている」
ビクトールが耳元で唸る風音に負けないよう声を張り上げた。
立ち上る砂埃に視界が悪くなっている。ユウリもチラリと後方を確認すると心持ち
馬に調整をかけた。
「にしてもなんだ。お前も結構言うようになったな」
「え、なに?」
「真の紋章の加護がってヤツ。そういうこと言わなかったろ」
ユウリは「信じる」ことを第一に掲げてきていた。
勝利を。自分の力を。仲間を。
その中で自分の宿した紋章がシンボルとなることに対する抵抗が多少なりとも
ないわけではなかった。が、しかし。
「うー・・・ん。ちょっとだけ考え方を変えてみた。頼りきって
しまうのはどうかと思うし、僕自身この紋章をそれほど頼りにはしてないつもりけど、
でも確かに力が必要な時はあるし実際助かってもいる。そう考えれば、
どういう形であれ僕が出し惜しみしてちゃいけないんだと思う」
「・・・強大な力が後ろ盾としてあるってのは安心感を与えるからな。
安心感は自信へと繋がる。
そりゃあ兵士たちにとって有効だったと思うぜ」
な?と、ユウリを挟んで反対側に視線を送れば、青いマントを風になびかせた
フリックも「ああ」と引き継ぐ。
「士気を高めるにはバツグンの言葉だったと思うぞ」
だが、と続ける。
「お前はいつだって一生懸命やってる」
ユウリは揺れる馬の背でただアリガトウと笑った。
ギィンッという刃鳴りがあちらこちらで響く。馬上での戦になった以上、ユウリ
も剣を片手に敵に向かっていた。
「やあぁあっ!!」
迷いない太刀筋が走る。顔や服に飛んでくる血を気にしている間は無かった。
が、どこからか伝ってきたそれに握っていた手が一瞬滑った。
「!!」
「敵将ユウリの首、もらったぁ!!」
「誰がッ!!」
意識はすでに手を離れた剣にはなかった。腰に下げていた短剣を掴み、引き抜く。
「ユウリ悪いな、お先だ!」
「え」
のんきにも聞こえる声が近くでしたと思ったら、次の瞬間悲鳴が被さった。
ついで地面に何かが叩きつけられるような音。先ほど目の前にあった鎧が
地に沈んでいるのを視界の端に映した。
その視界を遮るように青いマントが翻る。
「フリック。ありがと、助かった」
「どういたしまして。オイ、その短剣はしまってこっち使え。
お前の使ってるものより少し重いだろうが短剣よりマシだろう」
と言いながら、彼が帯刀していた剣をスラリと引き抜き、裸のまま馬上で渡す。
「重さの問題なら馬鹿力だから平気。フリックの使う剣は細めで扱いやすいし。
気になるのは長さくらいかな」
「お、言うな。その調子で今度は離すなよ」
ユウリは剣をヒュヒュ、と何度か弧を描くように振って感覚を確かめた。
「まかせて。ちゃんと後で返すよ」
ニィと笑い合った時。
「コラお前らこんな時に何まったりしてやがる!!」
ガガッと蹄を鳴らしてビクトールが駆け寄ってきた。ガシャと後方から重い
音がした。敵を倒しながら寄ってきたのだろう。
「ゴメン、僕が武器を落としたんだ」
「見りゃわかる!フリック、お前がついてながら何いつまでものんきに
突っ立って・・・」
「俺は助太刀に入ったんだぞ!?」
「そのことは別に悪く言ってねえだろう!」
「言ってるね!!」
「も〜2人ともストップ。戦いの最中だし」
「お前が原因だろ!?」
フリックとビクトールの目がくわっと見開き同時に叫ぶ。
「ごめんって!ほら行くよ、ビクトール、フリック」
ニコリ笑んで手綱を引き馬の方向を変える。
その様子は今から遠乗りにでも行くような気軽さで、その場違いさ加減に
やるせない思いが一瞬2人の胸を掠める。
「あ。そうだ、フリック」
名指しされたフリックが我に返って何度か瞬く。
「んん、なんだ?」
「剣、落とさないでね。もう代えはないんだから」
からかうような口調で言い、手にある剣を軽く上げた。フリックは一瞬絶句
した。
「お、お前が俺に言うか!」
「はっはっは、全くだな!フリック落とすなよ、俺の大剣は扱えんだろ?」
「ビクトール、お前まで!冗談キツイぞ・・・」
ビクトールとユウリが顔をあわせて短く笑い合い、そしてひょいとフリックへ
視線を投げる。それはからかうようなそれではなく。
3人は軽く姿勢を正し、素早く互いに目線を交わす。
示し合わせたように真ん中に出来た三角の空間へ各々の剣をかざした。
「じゃ。お互いに善戦を尽くしましょうってことで」
ユウリの言葉と共に、重ねた3つの剣がジャリンと鳴った。
ユウリの後に続こうとビクトールとフリックが馬に跨る脚に力を込める。
「ああ」
ユウリが思い出したというふうに声を上げる。
くるりと顔だけ2人へ向けて、笑顔をひとつ。
「善戦っていうより死力を尽くしてね。治る傷なら治すから!」
そう言うなり背を向け馬の腹を蹴る。
あっという間に砂埃の中に消えた小さい背中を2人は呆然と見送った。
「・・・いまの、素直に喜んでいいのか。なぁ、俺たちは感謝すべきか?」
「・・・むしろ世話になりたくねえよ・・・」
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このお題でもってシリアスにいかないか。我ながら不思議だ。
それにしても脈絡がなくてごめんなさい・・・。