瞑っていた目を開くと、淡いピンクの混じった白が視界を横切る。
 柔く、気まぐれに揺れながら。
 空を囲うようにして咲き誇った花が風が吹くごとにその存在を主張していた。


「雪みたいだ」
 甘く彩られたその雪に溶けてしまいそうな呟きに。


「桜吹雪って言うくらいだしね」
 風に乗せるようにふわり柔らかく応える。


「地面の色が冬とは違うけど」
 白の絨毯の下には、濃い色の土と、芽吹いたばかりの鮮やかな緑が覗いている。


「空の色もね」
 雲ひとつない空は、窮屈そうだった冬の空を押しやって高く伸び、水色に近い 青が広がっている。


「春だなぁ」
 はー、と澄んだ空気に温い息をゆっくり吐き出す。


「あっという間に散っちゃうだろうな」
 戯れに手を空に上げて、白の間で指を遊ばせる。


「だからこんなに桜が好きなのかな」


 ふっ、と風が途切れた。
 それらは流れる動きを止めて、それでもやはりユラユラと。


「散ってしまうから?」
 漆黒の髪に吸い寄せられるように、ひとつ、ふたつ、ほの淡いピンクが 落ちていく。


「・・・散るから好きってなんか変。うん、桜そのものが好きだよ」
 小首を傾げてそう言うと、陽をうけて明るくみえる茶の髪から、ひとつ、 ふたつ、淡いピンクが零れ落ちた。


「僕もだ」
 目を緩く細めたのは、注ぎ落ちてくる煌く陽光のせいか。


「キレイだね」
 瞼を下ろして空を仰ぐ。


「キレイだ」
 同じように目を閉じた。


 さあっという音と共に、再び風の動きを頬に受ける。


「そっか」
 ふと思いが至り、目を開ける。先ほどと同じ、淡いピンクの混じった光景。


「うん?」
 風に揺れる艶やかな黒に、先ほどの淡色の雫は見当たらない。


「散っている姿も好きなんだ」
 笑顔が吹雪にまみれて淡く霞む。


「そうだね。咲く姿も、散る姿もキレイだ」
 やはり眩しそうに目を細める。


「やっぱり桜だ」
「春だからね」


 胸いっぱいに桜色の空気を吸い込んだ。
e n d

これ書いてる現在、桜は散り始めてます。
「桜ネタを書いておきたい!」と慌てて作った次第です。
桜、大好きです。