陛下、と呼ぶ声が部屋に響いた。
窓辺に立っていた人影がゆっくりと動いて声のした方へ顔を向けた。
デュナン国国王の私室を訪れた客は声を発したきり、音もなく閉まった扉の
前から動こうとしない。国王と呼んだ人物の言葉を待っているのか。
しかし国王の口から出たのは、傍へ寄ることへの許可でも、また、入室理由の
問いでもなかった。
「・・・いつのまに僕は陛下と呼ばれるようになったのかな」
「それは国民が、でしょうか。それとも私が。・・・私が呼ぶのは初めてかと」
国王の第一声にしてはあまり歓迎しているように思えない言葉に、客は恭しく
頭を垂れて答えるが、その態度からはそこはかとなく余裕さが窺える。
国王はその答えにさほど興味が湧かなかったのか、眉ひとつ動かさない。
「ノックを、しなかったね。いや、それよりも護衛兵はどうしたかな。部屋の前
には常に2人立っていたと思ったけれど」
「おや。私は兵に入室を止められませんでしたが・・・?もっとも今はそこに
誰もおりませんけれども、問題はないのではありませんか」
何か含みを感じさせる言葉遣いは腕利きの商人を思わせるが、まとっている
服装に、足元に置かれた必要最低限のものしか入っていないだろう袋はどう
見ても旅人のものだ。しかし、ただの旅人が王に、しかも私室で会うことなど、
ありえない。
「ノックについては失礼致しました。・・・必要ないかと思いましたので」
そこで客は軽く顔を上げ、上目遣いににこりと笑った。丁寧な口調と
ミスマッチな、いたずらっぽい笑顔。
王の表情が、ふっ、と緩んだ。先ほどの見据えた目はどこへやら、親しみに
彩られた目が細められる。
「そう。兵の必要はないし、何も問題はない。あなただと・・・わかった、よ」
「・・・それは嬉しいような、悔しいような。どの時点から気付かれたのかが
非常に気になるところだな?」
ようやくそれぞれ窓辺と扉から離れると、時間をかけて歩み寄り、
相手を目の前にしてひたりと立ち止まる。
「ラウ。来たんだね」
「来たよ、ユウリ」
語るべきことは多いはずなのに、何も話さなくてもいいように思える。
どちらからともなく腕が伸び、相手の体をそっと抱きしめた。
きっと、この腕が全てを伝える。
再び会えた、この喜びを。
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イメージは2終了より数年後。
国王になった2主の元へ、坊ちゃんが訪れた時を想定。
この際、2主がBEかGEかは問わない方向で。